マノエル・ド・オリヴェイラ監督の『家宝』

 2010年が日本ポルトガル修好通商条約の150周年になるのを記念して「ポルトガル映画祭2010」が全国巡回している。まとめて見ることができる貴重な機会だ。できるだけ見ておきたい。
 昨年(2009年)7月に「ポルトガルの巨匠 マノエル・ド・オリヴェイラ監督特集」があり、なかでも映画『家宝』(2002年、フランス=ポルトガル、132分、カラー)は印象に残る作品だった。
 この映画の原作は、1922年10月生まれのアグシティナ・ベサ=ルイーシュというポルトガルの女性作家である。
 オリヴェイラの故郷はポルトガルポルトで、ベサ=ルイーシュもポルトの近くの出身である。
 ポルトワインの産地である北部ポルトガルポルトの近郊はブドウ栽培が盛んで、ブドウ栽培農家の地主の息子アントニオに嫁いだ女性カミーラ(レオノール・バルダック)が主人公。カミーラとアントニオ、アントニオの愛人の女ヴァネッサ、カミーラの結婚する前からの幼なじみの男ジョゼ、この四人の男女のもつれた関係を描いている。

 カミーラの夫がディスコで何者かの放火による火事に巻き込まれて亡くなる。
 その事件が起るまでの日々を、カミーラを通して登場人物の心理的な葛藤を冷徹に描いている。
 カミーラの夫の葬儀に夫の親族が外国(ブラジル)からの者も含めて集まって来て一緒に食事をする場面で、一族の一人がフロイト精神分析を語るシーンがあった。
 最後に夫の愛人とカミーラが対決する時の不気味なカミーラの笑いにゾクゾクッとした。
 
 この映画の冒頭は、小雨のなかを一人の女(カミーラ)が傘をさして村の教会(礼拝堂?)へやって来るところから始まる。
 女は建物の外の石の下に隠してある鍵(かぎ)を取り出すと、入り口の扉を開けて中へ消えて行く。
 その後、この教会(礼拝堂?)を何度もカミーラは訪れるのだった。

 その中で、何にお祈りしていたかが最期に明かされるのだが・・・。
 ジャンヌ・ダルクの小さな像があり、それにお祈りしていたのだった。
 このお祈りというカミーラの日課は、キリスト教というよりヨーロッパの地中海沿岸の土着的宗教という感じがする。