「転々多田道太郎」

枇杷の花

 一月六日は、二十四節気のひとつ小寒であった。
 暦のうえでは寒の入りである。一年中でもっとも寒さの厳しい時期であるが、枇杷の花が咲いていた。色は白で余り目立たない。
 蕪村の句に、「枇杷(びは)の花(はな)鳥もすさめず日くれたり」。安永四年十一月二十日の句である。
 山田稔著『マビヨン通りの店』から「転々多田道太郎」を読み終える。
 印象に残る箇所。
 「むつかしいもの、重いものよりも軽いように見えるものの方が思想的に深いんやで」  184ページ
 いくつもの引用を重ね、あちこち寄り道しつつ文字どおり転々、そして結論めいたものもなく、抜けるようにすっと終る。  195ページ
 「自分の発想の本質は俳句にある」と晩年、みずから認めている。  196ページ
 読後、山田さんが書いている二〇〇〇年六月から翌年八月にかけて、『群像』に四回にわたって発表した多田さんの「転々私小説論」も読みたくなった。
 第一回「葛西善蔵の妄想」(六月号)、「諧謔宇野浩二」(十一月号)、「飄逸の井伏鱒二」(四月号)、「飄飄太宰治」(八月号)。

マビヨン通りの店

マビヨン通りの店