映画『新しい家族』

『新しい家族』

「ロシア・ソビエト映画特集」の一本、イスクラ・バービッチ監督の映画『新しい家族』(1982年、97分、カラー)を観る。
 出演は、ピョートル・グレボフ、ヴェーラ・アリホフスカヤ、アレクサンドル・ミハイロフ、イリーナ・イワーノフ。
 プログラムから引用すると、
 

15年ぶりに故郷に帰ったパーヴェルは、かつての恋人ナースチャの死と、彼女との間に娘ポリーナがいたことを知らされる。パーヴェルは、娘を引き取ることを決意するが・・・。ベルリン国際映画祭審査員奨励賞受賞。 

ムルマンスクのニッケル鉱山の町にいるパーヴェル(アレクサンドル・ミハイロフ)は、父親からの電報で故郷に戻った。 
 父(ピョートル・グレボフ)と母(ヴェーラ・アリホフスカヤ)と再会する喜びもつかの間に、父からパーヴェルの許嫁だったが兵役に出ていた間のある事情で別れたナースチャの死とその遺児ポリーナ(イリーナ・イワーノフ)の存在を知らされる。実の娘ポリーナは14歳の少女に育っている。
 ポリーナには、母親のナースチャが画家との間で産んだパヴリクとナースチャが養子にしたスチョーパという5歳くらいの弟が二人いた。
 遺児の三人を誰が育てるかという問題で、パーヴェルの両親は煩悶(はんもん)していた。
 ナースチャの死後、ポリーナを引き取って養育しようとする父と母は60歳以上なので、後見人になれないという法律があり、ポリーナら三人の遺児は、町の教育委員会によって孤児院にそれぞれ別れ離れになって行かざるを得ぬというのだった。
 ポリーナ一人をナースチャへの贖罪から身元引き受け人として引き取ろうとするパーヴェルだったが、ポリーナ自身は、三人が別々に引き離されるのは否(いや)だと拒否する。
 パーヴェルは、教育委員会へ掛け合って、三人の子供を引き取って、ムルマンスクで、育てていこうと決意する。
 故郷の村から車で、故郷の人びとににぎやかに見送られて子供ら三人と共に駅へ向けて出発した。
 だが、子供らが飼っていた犬が車を追って速く走り付いて来る。どこまでもどこまでも。
 犬も三人と別れたくないのだろう。
 どこまでも追いかけて来る。犬は近道をし、車の前の道路に姿を現した。
 それを見たパーヴェルは、車を停車させ、犬を車内へ入れて連れて行こうとするのだった。
 駅で待合室にいた時に、パーヴェルが犬の首輪に付ける綱を買いに行っている間に、偶然パヴリクの実の男親の画家が通りかかり、懐かしさと贖罪とで連れて行こうとするが、買い物から戻ったパーヴェルは、そんなことは知らぬままに、列車がやって来たので子供三人と犬一匹と共に乗り込む。
 この乗車しようとする時に、女車掌が犬は一緒に乗車できませんよと言い、押し問答する場面があるのだが、犬がそれを見て(?)、車掌の足元にすがるようにひれ伏すのだった。
 ユーモラスな犬の演技に、見ていてにやりとする。車掌は、犬のする懇願に負けたわと言うかのように、犬とコンパートメントへ乗車することを、規則を無視して認める。
 動き出した列車に、プラットホームから画家の男は悲痛な様子で列車の中のパヴリクを見送るのだった。
 ムルマンスクの町の住居に着いたところ、パーヴェルの同棲していた女タマーラは、電話で子供らを連れて帰ると連絡をしたのだったが、それを嫌って荷造りして別れて親元へ帰ってしまっていた。
 しかし、寒さの厳しい北の地で、パーヴェルはポリーナら三人の遺児とともに暮していこうと決意する。
 勤め先の同僚らの祝福を受けて・・・。イスクラ・バービッチ監督は、親子、家族の絆を愛情を込めて描いている。

 特筆すべきは、犬の存在がこの映画の隠れた味になっていることだろうか。
 冒頭、故郷の家へ戻った主人公を警戒して吼える犬、パヴリクとスチョーパの男の子が犬とじゃれ合う場面、駅へ向かう車を追いかけて走る場面、ムルマンスクの町で犬同士の縄張り争いを止めようとパーヴェルが家から飛び出す場面と、物語の転換場面に犬を登場させているのが印象的だ。
 犬の表情や動きが素晴らしかった。