映画「わが生涯のかゞやける日」

 9月、10月は、生誕100年にちなんで宇野重吉さん(1914―1988)の特集を開催します。宇野さんは、劇団民芸を率いて日本の新劇界を代表する役者として活躍する一方、その確かな演技力で映画にも大きな足跡を残しました。そうした宇野重吉さんの出演作を振り返ります。(特集パンフレットより。)

 吉村公三郎監督の映画『わが生涯のかゞやける日』(1948年、松竹大船、101分、白黒)を映像文化ライブラリーで観る。女性客が多い。
 出演は、森雅之山口淑子滝沢修宇野重吉、井上正夫、加藤嘉清水将夫、三井弘次、殿山泰司

 青年将校時代、重臣を暗殺した沼崎敬太は、戦後は酒と麻薬に溺れる日々を送っていた。殺された重臣の娘・節子はキャバレーの歌姫となり、沼崎と出会い彼を愛するようになる・・・。戦争で心の傷を負った人々の戦後の生き方を描く。

 松竹大船1948年9月完成の映画である。
 冒頭のクレジットで、スタッフや出演者の名がロールアップされ飛び出して来る映像が今見ても新鮮だ。
 脚本は新藤兼人である。音楽が木下忠司。

 終戦間近の夜、戦争を継続することを主張する青年将校だった沼崎(森雅之)は、重臣の一人戸田(井上正夫)を問答無用とばかりに暗殺した。その娘の節子(山口淑子)は、沼崎へ護身の短刀で切りつけた。沼崎は腕に傷を負った。
 だが、節子には暗闇で沼崎の顔は分からなかった。
 (この部分は伏線。)
 敗戦後、沼崎は、麻薬で身を持ち崩して、銀座のキャバレーの用心棒をしていた。
 キャバレーの経営者・佐川(滝沢修)は新聞社も経営している男である。
 戦時中に軍部に通じて時流に乗り儲け、戦後も相変わらず、悪徳な暴力の闇の帝王であった。
 生きていくために節子(山口淑子)はキャバレーの歌姫に雇われた。節子の美貌に佐川(滝沢修)は愛人になれと節子に迫る。 
 節子は失業中の義兄(清水将夫)を佐川の新聞社へ就職させる条件をつけて、義兄を就職させた。
 ある日、キャバレーに佐川の犯罪を告発しようとまっとうな新聞社の記者(宇野重吉)が松葉杖をついてやって来た。
 しつこく取材する記者を追い出せと沼崎は佐川に命じられたが、その記者が沼崎の学生時代の友人だったと知る。
 節子の義兄(清水将夫)はキャバレーで記者(宇野重吉)に見つかり追いかけられる。逃げる節子の義兄と松葉杖で追いかける記者。
 追いかけるには理由があって、戦時中に検事だった節子の義兄に拷問され足が不自由になっていたからだった。
 いつしか節子と沼崎(森雅之)は心ひかれるようになっていた。
 それを知った佐川は、節子の義兄と記者をけしかけて決闘させ、煙たい記者(宇野重吉)を殺させようと用心棒の沼崎に命じた。
 そうすることで、節子の心を自分の方へ引きとめようとした。
 友人を裏切って沼崎は麻薬を手に入れるために、佐川の命令に従ったのだった。
 だまされて夜の川岸で節子の義兄と記者が決闘させられたのだったが、記者(宇野重吉)と節子の義兄とは佐川のたくらみに気がつく。
 一方、命令に逆らったと沼崎は佐川からピストルで殺されそうになり乱闘の末、沼崎は佐川を殺した。
 節子のアパートを訪れて来た沼崎の傷の手当てをした節子は、腕の傷跡から父の仇のあの男だと確信する。
 明日は自首する沼崎と最後の一夜を過ごす節子と沼崎のこの日が、「わが生涯のかゞやける日」なのであった。
 ラストは、警視庁へ二人が歩いて進んで行く。
 一人、沼崎が節子を残して歩いて行くのだった。


 宇野重吉は脇役で正義感あふれる新聞記者という人物像を演じている。三井弘次、殿山泰司は佐川の子分役である。
 佐川役の滝沢修が精悍な悪党を演じて森雅之とのアクションシーンも見事に演じている。
 昭和23年の銀座の町並みが見られるのは貴重である。