安岡章太郎氏のこと

 29日のラジオで、安岡章太郎氏の訃報ニュースを聴いた。26日に亡くなられたという。
 30日の新聞の各紙でお悔みの記事が掲載されていた。ご冥福をお祈りいたします。
 安岡章太郎さんといえば、最近読んだ本で、『わたしの20世紀』が面白かった。
 これを読むきっかけになったのは、山田稔著『マビヨン通りの店』から「転々多田道太郎」を読んだからです。
 二〇〇〇年六月から翌年八月にかけて、『群像』に四回にわたって多田道太郎の「転々私小説論」が掲載された。
 第一回「葛西善蔵の妄想」(六月号)、「諧謔宇野浩二」(十一月号)、「飄逸の井伏鱒二」(四月号)、「飄飄太宰治」(八月号)。

 『群像』2001年4月号に掲載の多田道太郎の「転々私小説論」(三)「飄逸の井伏鱒二」を読むと、小説と映画をめぐって興味深い話が展開されています。
 小津安二郎の映画に『東京の合唱(コーラス)』(1931年、松竹キネマ、90分、白黒、無声)がありますが、安岡章太郎さんが映画『東京の合唱(コーラス)』は、井伏鱒二の小説が原作であると指摘した『わたしの20世紀』を引用して多田さんは述べています。
 その二つの作品のあいだに、小津安二郎井伏鱒二のご両人のあいだに共通の友人として松竹蒲田の俳優の石山龍嗣がいたと安岡さんがおおらかな解釈をしているわけです。
 その安岡さんのおおらかな解釈を多田さんは、

 正直、ぼくは感心しました。感激しました。  『群像』2001年4月号 214ページ
 と言わしめているのです。

 安岡章太郎さんの「果てもない道中記」で、安岡さんが『大菩薩峠』を読みだしたのも、何度も映画の『大菩薩峠』を見覚えていたからでした。
 その意味で、『わたしの20世紀』は、映画と文学の関係を見るに興味深いものがあります。

わたしの20世紀

わたしの20世紀

マビヨン通りの店

マビヨン通りの店