《10月から11月にかけて、没後50年にちなんで、成瀬巳喜男監督(1905―1969)の特集を開催します。巧みな生活感の表現や繊細な心理描写で、家族のドラマや女性の生き方を描き、数々の秀作を残した成瀬巳喜男監督。今月は、ベスト・ワンに輝いた1930年代の代表作『二人妻 妻よ薔薇のやうに』、夫婦の葛藤と和解を描いた『めし』、ベテラン女優の競演で味わい深い作品に仕上げた『晩菊』、成瀬芸術の集大成ともいえる高い完成度を示した『浮雲』などを上映します。日本映画の芸術性を高めた巨匠の一人、成瀬巳喜男監督の世界をご堪能ください。》(10月プログラムより)
成瀬巳喜男監督の映画『二人妻 妻よ薔薇のやうに』を鑑賞。
(1935年、P.C.L.映画製作所、74分、白黒、35ミリ)
出演/千葉早智子、丸山定夫、英百合子、伊藤智子、藤原釜足。
中野実が書いた新派の舞台劇『二人妻』の映画化。歌人である妻、家庭を離れ砂金を探して暮らす夫、その夫に献身的につくす愛人。三者三様の微妙な立場を、若い娘の目を通して描く。『キネマ旬報』のベスト・ワンに輝いた作品。(10月プログラムより)
冒頭のタイトルのシーンが長い。上に二人妻、下に妻よ薔薇のやうに、と二段表記。
フィルムの音声と映像の状態は良かった。
家を出たまま長い年月、東京の家へ帰って来ない父(丸山定夫)を待つ娘(千葉早智子)は、歌人の母(伊藤智子)と二人で暮らしていた。信州の山村で砂金探しに取り組んでいる父から、生活費は書留で定期的に送られてきていた。
娘は都心の会社で勤めている。月給45円。
母が、短歌の生徒の婚礼の仲人を頼まれた。娘は母のために、父に仲人として母に連れ添ってもらいたくて東京へ呼び戻そうと決意して信州の山村へ出かけた。
父は山村で愛人(英百合子)と二人の子供(娘と息子)との所帯を持って暮らしていた。
その事実に驚くとともに、愛人が父に代わって生活費を定期的に東京の母と娘の家へ送金していたことを知る。父と母、愛人との三角関係の微妙な感情を見事に娘の目から描き味わい深い作品。
藤原釜足は、母の伯父を演じている。
歌人の母が、芸術家肌で自分の気持ちを上手く夫へ伝えられないのがもどかしい。