『五月の読書』

 ふと『五月の読書』について書きたくなった。
 みすず書房の「みすず」1・2月合併号に2020年読書アンケートがあり、誰も挙げていなかった本で、高橋英夫著『五月の読書』という本です。単行本に未収録の原稿をまとめています。読後感は五月の青空のような爽やかな風の吹いている本でした。巻末に「引用に吹く風――高橋英夫頌」と題して堀江敏幸氏の解説があります。この『五月の読書』で、『ニヒルとは無縁な「文学の魂」』と題して後藤明生を論じ、「編集者ハヤシ・タップの金字塔」と題して林達夫を語り、磨かれた文章が心地よい名文です。
 《「きみの訳した、『ホモ・ルーデンス』だけど、校正刷が出たらハヤシ・タップに見て貰おうと思ってるんだよ」。粕谷一希は私にそう言った。四十年も昔のこと。彼の勧めで取組んだ遊びの文化論の翻訳だった。『中央公論』デスクだった彼は、顧問として時々中央公論社に姿を見せる林さんとも親しかったのだ。「こういうものを見てもらうのに最適な人だからね」。》
 《林さんのその多元的・多極的な歩みが広く認められるようになったのは、戦前すでに『文芸復興』『思想の運命』という魅力ある著書が刊行されていたとはいえ、やはり戦後になってからである。》

 

 

五月の読書

五月の読書

  • 作者:高橋 英夫
  • 発売日: 2020/04/25
  • メディア: 単行本