吉田健一訳の『旅は驢馬をつれて』と小沼丹

 昼間は晴れて青空だった。夕方、月が南東にあって高度四〇度くらいだった。南に地平に近い高度一〇度くらいに金星が明るく輝いている。東の空には火星が、まだまだ大きく赤くオレンジ色がかって高度三〇度ほどの位置に光っていた。まだ星ははっきり見えない時間帯の夕暮れ時。空の青みが一層増してやがて夜の空になる。
 先日、吉田健一の訳によるスティヴンソン作『旅は驢馬をつれて』を本当に久しぶりに出して来て、ぱらぱらあちこち読んでみた。吉田健一の訳を味わった後、数日して、今日なにげなく手にした『一階でも二階でもない夜』(中央公論新社)という堀江敏幸の本に、小沼丹訳のR・L・スチヴンスン『旅は驢馬をつれて』を古書店で買うエピソードが出てくるではないか。そのマニアぶりが、ほほえましい。
 吉田健一の訳は、岩波文庫堀江敏幸小沼丹訳から引用しているところは、吉田健一訳では次のようになっている。

 ル・モナスティエという小さな町は、ル・ピュイから十五マイル先の、爽快な高原の谷間にあって、私は晴天の下にそこで一ヵ月程過した。モナスティエはレエスの生産と、よっぱらいが多いことと、言論が極めて自由であることと、政治上の軋轢が猛烈であることを特色としている。  10頁