ブルー・ムーンの香り

ブルー・ムーン

 きょうは二十四節気のひとつ芒種(ぼうしゅ)である。『大辞泉』によると、〈太陽の黄経が七五度の時。六月六日ごろ。稲・麦など芒(のぎ)をもつ穀物の種をまく時期とされていた。〉
 公園のバラ園でブルー・ムーンというバラを眺める。とても良い匂いのバラだ。
 四日の月は、上弦の月で薄っすらと曇っていた。ぼんやりした月であった。
 今宵はすこしも暮れない宵の空。日が長くなった。午後八時過ぎの夜空を見ると、南と南東に月と木星が並んで明るく輝いている。高度は、それぞれ六〇度と五〇度くらいである。蕪村の句に「みじか夜や浅瀬にのこる月一片」(安永四年)。もうひとつ宝暦五年の句で、

   雲裡房に橋立に別る
みじか夜や六里の松に更(ふけ)たらず

 雲裡房(うんりぼう)とは何者か。『蕪村句集』の脚注に、〈「青飯法師」(句帳)渡辺氏。尾張俳人。支考門。〉とある。
 書店で、高橋源一郎の『優雅で感傷的な日本野球』(河出文庫)が、新装新版で出ていた。そのあとがきを読む。高橋さんが、今でもフィリップ・ロスの『素晴らしいアメリカ野球』は手に入るだろうか? と問うている。うーむ。さて、どうだろうか。
 先月(五月)に、古書店の店頭の棚で、前から気になっていた本をやっと買った。本は野菜や果物と同じように新鮮な(気持ちの)ときに食べる(読む)べし。
 集英社版世界の文学34「ロス」である。●●●●●●●●女子短大図書館の蔵書本で、本の天に赤いゴム印で[除籍]という文字が押してあり、学生にあまり読まれた形跡のないきれいな本である。図書館が蔵書を処分したのかな。
 この本に、フィリプ・ロスの『素晴らしいアメリカ野球』というタイトルの小説がある。
 もうひとつ、フィリップ・ロスの『さようなら コロンバス』というタイトルの小説がある。
 お気づきだろうが、高橋源一郎の『さようなら、ギャングたち』と『優雅で感傷的な日本野球』のタイトルに似ていなくもない。
 『素晴らしいアメリカ野球』の原題は、The Great American novel,1973。訳は、中野好夫となっているが、中野好夫の「あとがきに一言」によると、「なお本訳稿は、丸谷才一常盤新平両君、および私の共同成果と考えてもらいたい。とりわけ丸谷君の助力がなければおそらく不可能。私ひとりなら投げ出していたに相違ない。但し、責任はもちろん私ひとりが負う。」(431頁)