我も行人秋のくれ

ハスの種子

 二百十日に公園の池へ寄り道した。その時、ハスの種子が収まっている花托(かたく)が、何本も茶色に枯れて立っていた。その中にまだ緑色の花托が一本、ハスの葉の中から伸びているのだった。春から初夏にかけて鳴いていたカエルは、ハスの枯れた水面の葉にいたが、今は静かだった。
 先月古書店で買った、森本哲郎の『ことばへの旅』(ダイヤモンド社)で、蕪村の「門を出(いづ)れば我も行人秋のくれ」の句をめぐって、〈旅について〉の文を読む。初版が1973年12月。買ったのは1974年の6版だが、装幀・切り絵が安野光雅で気に入った。
 芭蕉の「此道(このみち)や行人なしに秋の暮」の句と並べて、それに対する蕪村の気持ちを森本哲郎さんは書いている。

ところが、蕪村は逆でした。彼は、日常の世界で探求者になることによって、旅人でありつづけようとしたのです。日常の雑事とたたかいながら。  109頁