江國滋の『落語美学』

ボートの人々

 羊雲の広がる空を眺めながら川を渡っていると、上流にボートが小さく見えた。川の中央で向きを変えつつあった。さあ、これから漕ぎ出すかな。と、眺めていると一向に動き出さない。流れに任せてボートが近づいて来ているのだった。漕ぐのを止めて流れて来た。漕ぎ手が四名、舵手が一名。橋のそばにやって来たとき、漕ぎ手と舵手が振り向いて橋の上へ目を向けた。
 午後八時ごろの南西の空に、木星は高度二十五度くらいの高さにあった。天頂にひとつ明るい星が見えた。こと座のベガかな。
 書店に寄り道する。文庫の新刊のコーナーで、江國滋の『落語美学』*1ちくま文庫)に目が留まる。パラパラ、ページを繰る。一読、ワクワク感あり。買う。
 江國滋の『俳句旅行のすすめ』(朝日文庫)が、まだ〈「スイス吟行」日記〉で、とどまっている。チューリッヒの目抜き通りのバーンホフストラッセ駅前通り)に、デパートや有名ブティック、時計宝飾店、カッフェに混じって多くの銀行が並んでいる。

 〝チューリッヒの小鬼(ノーム)たち〟(The gnomes of Zurich)ということばを思いだした。世界に冠たるスイス銀行の異名である。
 自分はいま、スイスに来て俳句を詠もうとしている。これぞまことの〝スイス吟行〟――つまらん駄洒落をつぶやきながら、チューリッヒ湖までぶらつく。*2  151頁

「イギリス俳句紀行」は次に読むことにしよう。

*1:落語美学 (ちくま文庫)

*2:太字は、傍点あり。