レモンと愛郷心

ハクモクレン

 街路樹のハクモクレン(白木蓮)のつぼみが、じょじょに開きかけている。ビロードのような肌触りのつぼみの皮が、割れてきた。
 昨年よりは開花は遅れているようだ。
 『倉光弘己対談集』(KBI出版)から、多田道太郎との「気はどこからやって来たか」と題した対談を再読する。
 紅茶にレモンを入れるレモンティーをめぐる談話があった。この話はどこかで読んだことがあったなぁ。

倉光 面白いですねえ。十七世紀半ばころ、ポルトガルの王妃キャサリンがチャールズ二世に嫁いだとき、持参金代わりに当時は貴重品だった砂糖と紅茶を大量にイギリスに持ち込んだということを、角山栄先生のご本で読みましたが、ミルクティー愛郷心の発露という話は初耳です。レモンティーにも何か発祥的な話がございますか。
多田 それがね、ちゃんとあるんですよ。イタリアの南にシチリア(シシリー)島がありますねえ。ここはレモンが沢山とれた。ところが貧しい島なので、アメリカへの移民も少なくなかったのです。このアメリカのプアー・ホワイトたちが懐かしい匂いとして紅茶にカリフォルニアのレモンを入れだしたというんです。
 大阪出身の小説家、梶井基次郎が『檸檬』という小説を書いたのは、彼の独特な皮膚感覚をとおして、レモンに欧州の本流ではなく、アメリカの貧しい白人に時代の最先端を感じたからだと思います。  93ページ