オタール・イオセリアーニの『ここに幸あり』

ソメイヨシノ

 ソメイヨシノが満開だ。蕪村の句に、「花に暮て我家(わがいへ)遠き野道かな」。
 オタール・イオセリアーニ監督の最新作『ここに幸あり』2006年(JARDINS EN AUTOMNE)を横川シネマで観る。121分。
 映画館への途中、通りを一筋間違えていたらしい。通行人の婦人に道順を尋ねる。最終日の最終回の上映時間で、早く行ったのでロビーで待っていた。
 ひとり、ふたりと観客が集まりだして館内に入った。
 予告編でスウェーデンロイ・アンダーソン監督の映画『愛おしき隣人』を観る。面白そうだ。
 イオセリアーニの映画『ここに幸あり』にミシェル・ピコリが、主人公ヴァンサン(セヴラン・ブランシェ)のお母さん役で出演していた。その演技振りが怪しい。どこか可笑しい。笑う。
 ミシェル・ピコリといえば、ルイ・マルの『五月のミル』やジャン=リュック・ゴダールの『軽蔑』にも出ていたが、八十歳を越えても驚くほどの演技だ。しかも女装して・・・。
 映画の冒頭に象が登場する。パリで大臣をしていたヴァンサンは、失言が元で失職する。妻にも去られ、お金も肩書きもなにもかもなくしてしまった。
 そのあと、故郷に戻った主人公はアフリカからの移民との交流や、昔の懐かしい友だちと再会し、酒を飲んだり音楽を演奏したり歌いあったりと、過ごしたりすることで、人生の幸せとは何かを気づいてゆく。
 余談だが、『五月のミル』は1968年五月のフランスを舞台にした映画であったのを思い出す。
 映画館を出ると、夜風が冷たかった。