「植草甚一の青春散歩」のこと

カモメ

 川を渡っていると、川面(かわも)に白い鳥がいた。カモメの群れである。竹のひびの周辺に散らばるように浮いている。のどかな小春日和だ。
 蕪村の句に、「小春凪(こはるなぎ)真帆(まほ)も七合五勺(しちがふごしゃく)かな」。
 先日から植草甚一のアニバーサリー・ブック『植草甚一 ぼくたちの大好きなおじさん』(晶文社)の付属のCDで、植草さんの話を聴いている。
 繰り返し聞いていると、コーヒーカップのカチリとした音が聞こえてきて、インタヴューに答えている部屋の気配が伝わってくる。
 2008年8月8日は植草甚一の生誕百年であった。
 雑誌『東京人』12月号に、新連載「植草甚一の青春散歩」が始まった。
 第一回は「日本橋小網町 下町の商人の息子」。
 筆者は津野海太郎氏である。
 震災前の東京の地図から生誕地を捜し求める津野さんの文を興味深く読む。植草甚助、谷崎潤一郎などへの言及もある。