「読書で豊かに」

 最高気温6度。寒波が襲来して底冷えがする。山間部では積雪の模様。
 今夜は満月で雲間に見え隠れする。
 蕪村の句に、「古池に草履(ざうり)沈ミてみぞれ哉」。
 ラジオ深夜便の「ないとガイド」で「読書で豊かに」を聴く。明石勇アナウンサーの担当日である。今月のゲストは植島啓司さんで、三冊の本が紹介された。
 ル・クレジオ『偶然』(集英社)。
 藤沢周平神隠し』(新潮文庫)。
 田中未知・編『写真屋寺山修司』(フィルムアート社)。
偶然 帆船アザールの冒険写真屋・寺山修司―摩訶不思議なファインダー
一冊目は、ル・クレジオ『偶然』(集英社)。特に最初の思春期のむつかしさは皆さんが指摘するところなんですけども、この老いに入るところのむつかしさというのをですね、非常に上手く描いている。
ぼくが共感したのは、ちょうどまぁ、同じ、その男の考えていることが、自分の考えていることとぴったり重なるように考えさせてくれるんですね。丁度58歳という設定で。
 係留されている帆船に十歳の少女ナシマが密航者として乗り込む。
 船長は離婚して妻や子供とも別れて、財産全部を船に積み込んで生活している。十代の密航者ということで船長は責任を問われるんですので、(密航を)拒絶するんですね。
 二人がそれぞれ危うい状態にいるところで出会うんですね。文章はシンプルなんですが、(少女のナシマの描写)イメージ喚起力といいましょうか、現代フランス文学者で第一といいましょうか。
 現代フランス文学者のなかでは卓越した人でしょうかね。明石アナウンサーが、少女ナシマの描写の一節を朗読する。こんな女性の描写、しびれますね。
 文章が微分化するというんではなくて、全体がそういう流れにあるというか。ニースから船を出して中南米パナマですかに向かうんですね。その行程を描いているんですね。
 物語がはっきりしていて、わくわくするところもあって、話が彼にしては分かりやすいですね。人生が危なっかしいところにさしかかっている少女と船長と操舵手の三人が船で航海するんですね。アザール号という船で・・・。
 ル・クレジオ自身だんだん70年代以降、中南米インディオやアフリカとかに感情移入しはじめて首尾一貫した素直さ、透明さも好ましいんではないかと思います。ノーベル賞を貰った作品。

神隠し (新潮文庫)

神隠し (新潮文庫)

 二冊目は藤沢周平神隠し』(新潮文庫)短編集でこれほどの傑作の集まった本はない。
 どれも面白い。30ページあまりの「神隠し」は前から気になっている作品で、と植島さんが語る。
 ストーリーは簡単で、小間物屋の女将(おかみ)さんで神隠しにあって戻ってくるんですが、といって作品にでてくる人物の心の機微を語るのを興味深く聴いた。
 三冊目は、田中未知・編『写真屋寺山修司』(フィルムアート社)。
 撮ることに快があるんだ。真実を写し取るというよりも、撮ること自身行為パフォーマンスに。
 今になって、寺山修司の不在が思われますね。
 
 今年度かぎりで、「読書で豊かに」は終わることになるそうだ。うーむ。残念だなぁ。
 次回は阿部日奈子さんの予定。