『ナマコガイドブック』

 蕪村の句に、「生海鼠(なまこ)にも鍼(はり)こゝろむる書生哉」。明和五年一〇月二十三日の句である。ユーモアのある句だと思う。
 ナマコのおいしい食べ方といえば、ナマコをぶつ切りにして三杯酢に浸(つ)けて食べる。シンプルな食べ方だが、ナマコという生き物はわたしには不思議な生き物だった。
 それで、『ナマコガイドブック』という本を読んでみた。
 この本に俳句、それもナマコをめぐる俳句が引用されている。

 尾頭(おかしら)のこゝろもとなき海鼠哉  向井去来 
 滾滾(こんこん)と水湧き出ぬ海鼠切る  内田百鬼園
 酢に逢うて石となりたる海鼠かな  野村喜舟 
 腸(わた)ぬいてさあらぬさまの海鼠かな  阿波野青畝 
 思ふこといはぬさまなる生海鼠かな  与謝蕪村 
 「ロハ刀痕ノゴトシ」とはこの海鼠  宇佐美魚目 
 徹頭徹尾せぬを身上海鼠かな  成瀬桜桃子
 釣針の智恵にかゝらぬ海鼠哉  横井也有
 世の中をかしこくくらす海鼠哉  正岡子規

 本川達雄さんのナマコ学講義が面白い。一部引用する。
 「ナマコに目はあります?」
 「ない。」
 「耳は?」
 「ない。」
 「脳は?」
 「No。」
 「歯はありますか?」
 「はい。でも口じゃなく肛門に。
  ところで、息はどこでするか知ってる?」
 「お尻でしょ。」

 「はじめに」から、
 《私は長いことナマコとつき合っているが、それでもナマコが可愛いと思ったことはない。しかし、ナマコの生理や行動の研究を通して、ナマコがあのようなゆったりとした生活を送れる秘密を知るにつけ、ナマコを尊敬できるようになった。尊敬できれば、たとえ好きでなくてもつき合っていける。好きでないものともつき合えるというのが、大人になるということではないだろうか?》
 
 ナマコは棘皮(きょくひ)動物で、省エネ型の生き物なんですね。
 《つまりね、ナマコはお菓子の家に住んでいるようなもの。お腹がすいたら回りをかじればいい。動かなくても、働かなくても、何の心配もなく食べていける。》 69ページ
 ヒトと違い、逆に省エネに徹することにより、生きているナマコ。
 最後に、ナマコ本の名著を一冊あげている。

ナマコの眼

ナマコの眼

 鶴見良行著『ナマコの眼』だった。
ナマコ ガイドブック

ナマコ ガイドブック