種芋と犬と『細雪』

1月プログラム

 一月は「北欧映画特集」と「名作映画 岸惠子特集」の二つの特集があった。
 「北欧映画特集」では、8日にアキ・カウリスマキ監督の映画『愛しのタチアナ』が印象に残る。
 フィンランド人、エストニア人、ロシア人の四人の若者のロードムービー
 9日にアキ・カウリスマキ監督の映画『過去のない男』(2002年、フィンランド、97分、カラー)を、つづけて観る。
 これは公開時に観て以来で、相変わらず良かった。
 『愛しのタチアナ』の女優カティ・オウティネンが『過去のない男』では救世軍の女性で出演している。
 前には気づかなかった細部に面白い発見があった。そのひとつが、男がコンテナの家に住むことになって、空き地に畑を作ってジャガイモの種芋を植え付けるシーン。フィンランドの風土を感じさせられる。
 そして秋の収穫。ささやかな家庭菜園に取り組む男が農民出身だったことをうかがわせるセリフ。
 『街のあかり』に登場した犬が、この『過去のない男』に出演した犬だった。
 カウリスマキの映画では常連の犬である。主人公が困難に陥っているときに現われる犬だ。救いの手のように現われて来る。犬を見ると暖かくてほっとする。

 30日、市川崑監督の映画『細雪』(1983年、東宝映画、140分、カラー)を映像文化ライブラリーへ観に出かけた。「名作映画 岸惠子特集」の一本。
 昭和13年春、蒔岡家の四姉妹が集まって花見を京都の嵐山でする冒頭のシーンから、春・夏・秋・冬と季節が移り、雪の降るシーンまでを堪能する。長女鶴子(岸惠子)、次女幸子(佐久間良子)、三女雪子(吉永小百合)、四女妙子(古手川祐子)の四姉妹。長女鶴子の婿辰雄(伊丹十三)、次女幸子の夫貞之助(石坂浩二)。大阪船場の貴金属商奥畑のぼんぼん役を桂小米朝が好演。
 春、夏、秋、冬と季節の移り変わりのなかを雪子のお見合いと妙子の恋愛事件にゆれる蒔岡家の人々のゆくえを描いてきめ細かい演出と映像美に浸る。館内は満席に近い観客だった。
 うしろの席に着物姿のひとがいた。なんとなく『細雪』を見るにふさわしい感じ。