「ある文学事典の話 黒田憲治」

 山田稔著『天野さんの傘』(編集工房ノア)で、「裸の少年」につづく「ある文学事典の話 黒田憲治」を読むと、山田さんの多田道太郎と黒田憲治の人物評がある。

 《当時、黒田さんは三十を少し出たころだったが、若さに似ず大人の風格のようなものが備わっていた。三高時代は剣道三段だったそうで背筋がのび、声にも力があった。そのころよく一緒にいた多田道太郎とは体格だけでなく、さまざまな点で対照的だった。才気の人多田道太郎にたいして黒田憲治はいわば常識の人であった。》  112ページ
 当時というのは、一九五六年七月にポール・アレブレ著『伝記 スタンダール』(黒田憲治訳)が人文書院から出たのを、山田さんが黒田さんから謹呈された頃のことだそうだ。

 他に、一九五八年ごろに多田道太郎、黒田憲治、樋口謹一、加藤秀俊、それに山田稔の五人で「D・Dの会」というのができて、のちに「週刊読書人」で推理小説に登場する名探偵の列伝を連載することになったそうである。
 その後も「D・Dの会」で匿名時評のようなものをやって、一九六三年五月に講談社から「身辺の思想」という題の新書判の本となって出ているそうだ。

 後先になるが、ある文学事典というのは、一九五四年九月に福音館書店発行の『西洋文学事典』のことで、その『西洋文学事典』が二〇一二年に筑摩書房から復刊された。
 編集にかかわったのが、若き日の多田道太郎と黒田憲治であった。
 五十年以上前の話である。

天野さんの傘

天野さんの傘

身辺の思想 (1963年) (How to books)

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西洋文学事典 (ちくま学芸文庫)

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