秋の船本土離るる煤(すす)降らす

椿の実

 街路樹のツバキが実を付けていた。直径五センチほどもあり 艶々としている。


 「夜寒来て関門の朝あたたかく
 「秋の船本土離るる煤(すす)降らす
 「海峡を流るるものや手袋も


 前書は、「健史を伴ひて帰郷す 十八句」とある。
 引用句は、冒頭の三句である。

 昭和十三年(1938年)の中村汀女の俳句で、熊本へ帰郷したときの句を詠んでいる。
 関門海峡を鉄道は、連絡船で車両を運んでいた。
 蒸気機関車の石炭を燃やした煤(すす)が降って来る。
 連絡船から関門海峡の海面に目をやると、手袋が流れてゆくよ。

 俳句から眺める日本近現代史ではなかろうか。