『波』六月号の書評から

 新潮社のPR誌『波』六月号を頂いた。
 表紙に、坪内祐三さんの三輪車に乗った写真と筆跡とが掲載されている。
 トマス・ピンチョンの『ブリーディング・エッジ』刊行記念特集の池澤夏樹矢部太郎の両氏の寄稿を読む。

 「世界はゲームだぜ」(池澤夏樹
 「複雑な物語、8K的描写、長い!・・・・・・けど面白い!」(矢部太郎

 池澤夏樹氏の書評から一部引用すると、

 主軸はマキシーンとアイスの闘いと見えるけれど、それは話を駆動する仕掛けでしかない。ピンチョンはIT技術に絡め取られた社会相のぜんぶを書こうとしている。長い手を広げ、ごっそり集めてこの話の中にがらがらと放り込む。細部が際立って全体像がぼやける。やっぱりコミックだ。  20ページ

 もう一つ他の書評で、ヤマザキマリ氏の「過去が縦糸横糸となって織り込まれていく」というタイトルの書評は、佐久間文子著『ツボちゃんの話 夫・坪内祐三』について書かれている。
 一部引用すると、 

 数年後、日本へ戻った私は北海道の大学2校でイタリア語の講師をするようになったが、そのひとつがイタリアの言語学者から紹介された文化人類学者である山口昌男氏が当時学長を務めていた札幌大学だった。本書で坪内夫妻も山口氏と親交があったことを知り、しかも私が在籍していた頃に札幌の山口氏を訪れていたという。こんな具合に、自分の過去と坪内夫妻の過去が縦糸横糸となって織り込まれていくような感覚が、文章を読んでいる間ずっと止まなかった。生きている坪内さんにはもう会うことができないが、胸の中の饒舌を包み込んだような、思慮深げな彼の表情が、頭の中に映し出されたまま消えなかった。  11ページ

 参照: 佐久間文子 『ツボちゃんの話―夫・坪内祐三―』 | 新潮社 (shinchosha.co.jp)