多田道太郎の『物くさ太郎の空想力』

 多田道太郎の『物くさ太郎の空想力』1980年刊(角川文庫)で語られる「怠惰の思想」は興味深い。文庫の解説で富岡多恵子が、

 この本の中の「怠惰の思想」を読まれるとはっきりするが、今の時代に「忙しいことは善きこと」に叛意を示すことは、とりもなおさず工業社会の効率主義に反することである。いい代えれば「怠惰の思想」をもつことは一種の謀叛になってしまう。しかし、多田氏もいわれるように、怠惰が、サボタージュ、即ちサボりたいという気持でなく、しんどいのはいやだ、とにかくゆっくりしたい、というのであれば、この謀叛は、たんにインダストリーへの謀叛でなく、もう少し広い、人間の文化というものへの空想と思考を生むはずである。    206頁

 と書く。多田道太郎のこの本は、どこから読んでも、面白い。読後のあとの柔らかなユーモアは比類ない。「語学趣味」という文には笑ってしまった。他には、「外人ずれ」の中で、多田道太郎がフランス人のしゃべるフランス語に仰天してしまったことに、私もおどろいた。冬樹社版の単行本は絶版。