2015-01-01から1年間の記事一覧

「ある文学事典の話 黒田憲治」3

山田稔著『天野さんの傘』の一篇、「ある文学事典の話 黒田憲治」は、一九五四年九月に福音館書店発行の『西洋文学事典』の実際の編者が多田道太郎と黒田憲治の二人であった。 当時は、桑原武夫監修とあるのみで黒田、多田両人の氏名は表に出ていなかったと…

「ある文学事典の話 黒田憲治」2

山田稔著『天野さんの傘』(編集工房ノア)の「ある文学事典の話 黒田憲治」に、多田道太郎と黒田憲治の人物評があり、一九五六年七月にポール・アレブレ著『伝記 スタンダール』(黒田憲治訳)が人文書院から出たのを、山田さんが黒田さんから謹呈された頃…

「ある文学事典の話 黒田憲治」

山田稔著『天野さんの傘』(編集工房ノア)で、「裸の少年」につづく「ある文学事典の話 黒田憲治」を読むと、山田さんの多田道太郎と黒田憲治の人物評がある。 《当時、黒田さんは三十を少し出たころだったが、若さに似ず大人の風格のようなものが備わって…

「裸の少年」のこと

山田稔著『天野さんの傘』(編集工房ノア)を読む。本の装幀は林哲夫さんである。 二〇一三年から二〇一五年にかけて書かれた未発表の五篇を含めて十一篇を収める。 その中で未発表の「裸の少年」という文が特に印象に残る。 冒頭、風呂場の洗面台の鏡に映っ…

映画「モンタナ 最後のカウボーイ」

「ハント・ザ・ワールド ハーバード大学 感覚民族誌ラボ傑作選」から『モンタナ 最後のカウボーイ』(2009年、アメリカ、101分、カラー、日本語字幕)を見ました。 監督はイリーサ・バーバッシュ、ルーシャン・キャステーヌ=テイラーという人です。 …

映画「リヴァイアサン」

「ハント・ザ・ワールド ハーバード大学 感覚民族誌ラボ傑作選」の一本。 「リヴァイアサン」(2012年、アメリカ、フランス、イギリス、87分、カラー)を観る。 原題、LEVIATHAN。 ニューベッドフォードかつて世界の捕鯨の中心地であり、メルヴィルの…

映画「ニューヨーク ジャンクヤード」

「ハント・ザ・ワールド ハーバード大学 感覚民族誌ラボ傑作選」の一本。 「ニューヨーク ジャンクヤード」(2010年、アメリカ、フランス、80分、カラー)を映像文化ライブラリーで観る。原題はFOREIGN PARTS。 監督、ヴェレナ・パラヴェル、J・P・…

羅(うすもの)や青無花果は太り居り

晴れる。最高気温33℃、最低気温22℃。空気が乾いている。 無花果(いちじく)の木に無花果のまだ色づいていないのを見つけた。 食べごろは、まだまだである。 「羅(うすもの)や青無花果は太り居り」 「羅の肩をおほへる稲光」 「暁のその始りの蝉一つ」…

映画『ピクニック』

ジャン・ルノワールの映画を見た。 『ピクニック』(1936年、フランス、40分、白黒)を8月8日から一週間限定で上映中。 ちょうどお盆で、観客が多い。 パリ近郊のセーヌ川の川岸に馬車でパリからピクニックにやって来た都会の商人の娘アンリエット(…

加藤秀俊著『暮らしの世相史』のこと

活動弁士の佐々木亜希子さんによるアルバート・パーカー監督の映画『ダグラスの海賊』(1926年、アメリカ、85分、カラー、無声)を映像文化ライブラリーで先月鑑賞したのだった。 「夏休み活弁シアター」パンフレットより再録。 17世紀の地中海で海…

鳴く蝉は海へ落つる日獨り負ふ

8日は二十四節気のひとつ、立秋である。暦(こよみ)の上で秋がはじまる日。 晴れる、最高気温35℃、最低気温26℃。連日、猛暑日。 クマゼミが朝早くから鳴く。遅れてアブラゼミも鳴きはじめる。 「鳴く蝉は海へ落つる日獨り負ふ」 「向日葵(ひまわり)…

けざやかに口あく魚藍の山女魚かな

晴れる。最高気温36℃、最低気温26℃。昼は空気が乾いているが、連日熱帯夜がつづく。 もうすぐ立秋なのだが、猛暑日がつづいている。 「雨祈る炎のかぐろくて盛夏かな」 「日盛りのあごつるして貧馬かな」 「けざやかに口あく魚藍(ぎょらん)の山女魚か…

“しもおれ”仲間

『ユリイカ』8月号は江戸川乱歩・特集号だった。 扉野良人の「乱歩と太郎とロビンソン」で、松山猛さんに言及されていて驚く。 池内紀の連載「記憶の海辺 一つの同時代史」は「神様のノラクラ者 あるいはある独行者のこと」と題した文章で、おじにあたる人…

映画「ダグラスの海賊」余話

アルバート・パーカー監督の映画『ダグラスの海賊』(1926年、アメリカ、85分、カラー、無声)を活動弁士・佐々木亜希子さんの活弁で観ました。 17世紀の地中海で海賊船に襲われ父を殺された若者は復讐を誓う。彼は自らも海賊の一員となり、一目置か…

映画「ダグラスの海賊」

《昭和のはじめ頃の映画に音がありませんでした。日本では、話芸の伝統を受け継いで、巧みな語り口で映画を説明する「活弁」が発達し、活動弁士は映画館のスターとして人気を集めました。弁士の語りによって、映画は新たな輝きを放ちます。この機会に、ぜひ…

いかなこと動ぜぬ婆々や土用灸

公園の池にクロイトトンボがハスの葉にとまっていた。 梅雨明け宣言が出る。最高気温31℃、最低気温25℃。晴れて湿度が低い。 蝉が朝から鳴き始めた。 夕方、月が久しぶりに眺められた。上弦の月である。 「いかなこと動ぜぬ婆々や土用灸」 「駅路やうしろ…

向日葵に鉱山人のきる派手浴衣

公園の池にシオカラトンボを見つけた。 トンボは一箇所にとどまり続けている。 近寄っても逃げる気配がない。 「ながれ藻にみよし影澄む鵜船かな」 「蚊のこゑや夜ふかくのぞく掛け鏡」 「流水にたれて蟻ゐる草苺」 「向日葵に鑛山人のきる派手浴衣」 飯田蛇…

採る茄子の手籠にきゆアとなきにけり

晴れる。最高気温31℃、最低気温23℃。 ムクゲの花が鮮やかに咲いている。まだ梅雨が明けていない。 「採る茄子の手籠にきゆアとなきにけり」 「葉びろなる茄子一ともとの走り花」 飯田蛇笏の俳句で、昭和七年(1932年)の句です。 畑から採ったばかり…

「ガダルカナルさよなら航海記」のこと

公園の池にショウジョウトンボを見た。数センチまでトンボに近寄っても、逃げる気配がない。 トンボ科の昆虫。雄は全体に鮮やかな赤色、雌は橙(だいだい)色。夏、池沼に普通に見られる。本州以南、アジア東部の熱帯に広く分布。 『大辞泉』 阿川弘之著『女…

 月さして燠(おき)のほこほこと鮎を焼く

水辺にコサギが餌(えさ)を求めて動き回っていた。 七夕が過ぎた頃に毎年梅雨が明けるのだが、今年はまだである。 「七夕のみなひえびえと供物かな」 「月さして燠(おき)のほこほこと鮎を焼く」 飯田蛇笏の昭和六年(1931年)の俳句である。 「七夕の…

雲の峰雷を封じて聳(そび)えけり

先日、シオカラトンボを水辺に見かけた。 夏至から土用の過ぎまでの頃は、クロイトトンボ、シオカラトンボ、チョウトンボなどが水辺に多数飛び回っている。 トンボ科の昆虫。中形でもっとも普通のトンボ。四〜九月に現れ、成熟した雄は腹に青白粉を装う。雌…

チョウトンボと講演「書くことの幸福」

公園の池にチョウトンボを見つけた。ハスの葉にとまっている。 仲間のチョウトンボがやって来ると、ハスから離れて仲間の方へ飛んで行く。 しばらくすると戻って来て、ハスの葉に舞い降りる。飛んでいる姿はひらひらと翅を動かして舞い、蝶(ちょう)の飛び…

脱(ぬぎ)かゆる梢(こずえ)もせみの小河(をがは)哉

7日、曇り、二十四節気のひとつ小暑で、最高気温25℃、最低気温21℃であった。 梅雨があがり暑さが本格的になる時期である。しかし、まだ梅雨明け宣言はない。 街路樹の木々にナツメの木があって、実が鈴なりだった。 「脱(ぬぎ)かゆる梢(こずえ)もせ…

漱石の別号、愚陀仏

「波」7月号の森まゆみさんの連載「子規の音」第十八回を読みながら、坪内稔典編「漱石俳句集」の明治二十八年の句をみると、 「柳ちる紺屋(こうや)の門の小川かな」 「見上ぐれば城屹(きつ)として秋の空」 「秋の山南を向いて寺二つ」 「山四方中を十…

「子規の音」

月刊「波」7月号の連載「子規の音」(森まゆみ)の第十八回「神戸病院から須磨へ」を読む。 明治二十八年の子規を描いている。 この年は、日清戦争に記者として従軍し、帰りの船で喀血して神戸に上陸して神戸病院へ運ばれた。 五月二十三日から七月二十三日…

緑金の蟲芍薬のただなかに

夏至の前後のひと月余りの間は日の出が早く、日没が遅くなる。 短夜(みじかよ)という言葉がふさわしい時期だ。 公園の池のハスの葉に、クロイトトンボがいた。糸蜻蛉(いととんぼ)という名前にふさわしく細長いからだである。梅雨時であるのだが、蛙(か…

「全集 もっとも贅沢な読書」

集英社の季刊誌「kotoba」2015年夏号を手にとってみた。 「全集 もっとも贅沢な読書」というタイトルの特集号である。 参照: 季刊誌「kotoba」 http://shinsho.shueisha.co.jp/kotoba/ 内山節氏の「何が切実な問いなのか」を教えてくれるものや岡崎武志…

『ほんほん本の旅あるき』を読む

南陀楼綾繁著『ほんほん本の旅あるき』を読む。 南陀楼綾繁『一箱古本市の歩きかた』の続編になる。 新潟や新津への「本の旅あるき」が楽しめた。新津に坂口安吾の墓があるそうだ。 呉市での一箱古本市と田中小実昌の育った呉の探訪記が読ませる。*1 吉村昭…

「詐欺師の勉強あるいは遊戯精神の綺想」のこと

種村季弘単行本未収録論集『詐欺師の勉強あるいは遊戯精神の綺想』の巻末の「解題」と「種村季弘略伝」を齋藤靖朗氏が書いている。 冒頭の「落魄(らくはく)の読書人生」は、青年向けの講演を文章にしたもののようだ。 原題は、「この世はぺてんとデカダン…

一読者から

19日の新聞に西江雅之氏の訃報記事を目にしました。 雑誌『ユリイカ』2013年6月号が、特集・山口昌男だったのですが、西江雅之さんが「山口昌男さんとのこと」という文章を寄稿されていました。 お若い頃の山口さんとの西江雅之さんの逸話などが興味…