枇杷咲いて長き留守なる館かな

先日、ビワの花が咲いていた。ビロード状のつぼみが割れて、小さな白い花びらが密集して咲いていました。地味な花で遠くから見るとあまり目立たない。葉は大きくてつやつやしています。 バラ科の常緑高木。四国・九州の一部に自生し、高さ約一〇メートル。葉…

片岡一郎『活動写真弁史』

みすず書房の「みすず」1・2月合併号を手に取って見る。2020年読書アンケートで毎年恒例になっている。映画本で岡田秀則氏が、ケヴィン・ブラウンロウ『サイレント映画の黄金時代』(国書刊行会)を挙げていた。 そして《無声映画といえば、二〇二〇年…

写真と記憶、小説と旅

新潮社のPR誌『波』2月号の石川直樹と柴崎友香の対談「誰かにとって特別なことで、この世界はできている」を読む。 石川直樹のエッセイ集『地上に星座をつくる』と柴崎友香の33の短編からなる小説集『百年と一日』をめぐるトークイベントを採録した対談で…

いま一つ椿落ちなば立去らん

今年は2月2日が節分である。節分は立春の前の日で季節の変わり目である。豆まきをしてわざわいをはらう。まだ寒さが残るが、もう梅の花がぽつぽつと咲きだしている。花びらからほんのりと良い香りがする。 椿(ツバキ)の木に赤い花が満開で、樹下に点々と…

二冊の本

先日22日、NHKのラジオ番組「高橋源一郎の飛ぶ教室」は、「ヒミツの本棚」が宇佐見りん著『推し、燃ゆ』で、本の紹介(書評)と高橋源一郎による朗読を聴いた。後半のゲスト出演が、宇佐見りんさん本人だった。驚く。宇佐見りんと高橋源一郎の談話を聴く。…

白水社のPR誌のこと

パブリッシャーズ・レビュー「白水社の本棚」2021年冬号が届きました。白水社のPR誌です。 次号(4月号)からはA5判小冊子にリニューアルされるというお知らせがありました。本号をもってタブロイド判としての発行は最後になるということです。201…

『渋谷実 巨匠にして異端』を読む

先日、映画本を眺めていたら、渋谷実についての本を見つけた。志村三代子・角尾宣信編『渋谷実 巨匠にして異端』で、手に取って見ると、表紙の写真が渋谷実監督の映画『自由学校』の最後のシーンにある横に伸びた松の枝に佐田啓二と淡島千景の若い二人の恋人…

「ヒミツの本棚」から

昨夜、NHKのラジオ番組で「高橋源一郎の飛ぶ教室」を聴いた。前半の「ヒミツの本棚」が藤本和子著『ブルースだってただの唄』が採り上げられて紹介される。リチャード・ブローティガンの『アメリカの鱒釣り』、『ビッグ・サーの南軍将軍』、『西瓜糖の日…

寒牡丹挿すやはなはだ壺貧し

快晴で最高気温は14℃、暖かくなった。冬咲きの牡丹(ボタン)が満開で色とりどりに目を楽しませてくれる。 「霜除に覗き窓あり寒牡丹」 「寒牡丹挿すやはなはだ壺貧し」 「調度みな之にふさはし寒牡丹」 松本たかしの昭和十三年(1938年)の俳句です。…

PR誌の書評から

明けましておめでとうございます。 年末から正月にかけて寒波が襲来でした。 今日は最高気温が2℃、この冬一番の冷え込みです。 出版社のPR誌で「波」と「図書」の1月号で、「波」の表紙がミシェル・フーコーの写真です。筒井康隆の掌編小説、対談・加藤…

年末の山茶花

寒波がやって来た。最高気温5℃。雪混じりの寒風が吹く。晴れて日ざしの中にいると暖かく感じられる。街路樹の山茶花(サザンカ)が満開で美しく日差しに照らされていた。 今年は、ラジオ番組で「高橋源一郎の飛ぶ教室」をよく聴いた。毎回、本の紹介とゲス…

胸中の凩咳となりにけり

文春文庫で『マスク』というスペイン風邪をめぐる菊池寛の小説を読みました。解説が辻仁成。1920年、文芸誌「改造」に発表される。菊池寛記念館でもダウンロードで、小説「マスク」は読めるようです。 参照:mask.pdf (city.takamatsu.kagawa.jp) 菊池寛…

「本よみうり堂」から

日曜日の新聞で、読売新聞の「本よみうり堂」の書評欄から「ポケットに1冊」で紹介された菊池寛の文春文庫オリジナル本に注目した。タイトルは『マスク』。スペイン風邪をめぐる小説集。「私も、新型ウィルスは怖い。」 マスク スペイン風邪をめぐる小説集 …

PR誌のこと

パブリッシャーズ・レビューの「みすず書房の本棚」が届いた。みすず書房のPR誌である。ご愛読ありがとうございました、という本号をもって発行終了のお知らせがあった。 本紙の前身「出版ダイジェスト」に《みすず書房は七六年から特集版に参加し、勁草書…

この3冊

師走の風が吹く。山茶花(サザンカ)の花の見られる季節になった。 毎年、この時期に新聞社の読書欄で、読書アンケート特集が組まれている。12日の毎日新聞の2020年の「この3冊」上に、荒川洋治さんが『山田稔自選集3』を1冊に選んでいた。 今年、…

新刊広告から

「ちくま」11月号に、寺村摩耶子著『オブジェの店』という本の広告があった。青土社の新刊だ。《無用、無益、無意味、無価値の魅力 文学・美術・絵本に出現したオブジェは人の深層意識・無意識を顕在化させ、不思議・驚異へと挑発し続ける! 本邦初の本格…

PR誌のこと

先月、本屋で講談社のPR誌「本」が12月号で休刊になるというお知らせがあった。先日、最終号の「本」12月号を頂いた。いろいろ思い出のあるPR誌である。この12月号が、通巻533号目になるようだ。講談社の新刊案内と連載記事を愉しませてもらった…

四つ葉のクローバー

出版社のPR誌に「白水社の本棚」2020年秋号がある。新刊案内やコラムがあり、「愛書狂」に、『本のリストの本』をめぐるコラム記事。一部引用すると、《共著者の一人・南陀楼は書く。「インターネットのない時代には、著者や出版社、刊行年などひとつひ…

茶の花の垣たえだえに草の中

茶畑の茶の花が見ごろになっていた。白い花びらです。初冬の花ですね。葉は長楕円形です。樹下に点々と白い花びらが散っていました。 「茶の花のとぼしきままに愛でにけり」 「茶の花の垣たえだえに草の中」 松本たかしの俳句です。「茶の花の垣たえだえに草…

「本よみうり堂」から

読売新聞の書評欄「本よみうり堂」に、長嶋有著『今も未来も変わらない』という本の書評を村田沙耶香さんが書いていて注目しました。気になる本であります。 書評から一部引用すると、《この小説は、その平凡な光景に実は宿っているものを、きちんと日常の中…

栗を手ぐさの松山訛のみならず

金木犀(キンモクセイ)の強い花の香りが匂う季節になりました。小さな橙色の小花が密集しています。 「栗を手ぐさの松山訛のみならず」 昭和二十一年(1946年)の石田波郷の俳句です。 この句の前書きに、「中村草田男氏」とあります。 石田波郷は、草…

ジャン=ピエール・モッキー特集から

先日「映画/批評月間 フランス映画の現在 vol.02」オリヴィエ・ペール(「アルテ・フランス・シネマ」)によるセレクションで、ジャン=ピエール・モッキー特集を観ました。 『今晩おひま?』(1959年)、『ソロ』(1970年)、『赤いトキ』(197…

映画『ポルトガル、夏の終わり』

アイラ・サックス監督の映画『ポルトガル、夏の終わり』(2019年)は、ポルトガルの避暑地シントラの晩夏にバカンスを過ごすフランキーという名の女優をイザベル・ユペールが演じている。癌をわずらっていて夏の終わりに、家族と友人を呼び寄せる。自ら…

映画『ティップ・トップ ふたりは最高』

先月「映画/批評月間 フランス映画の現在 vol.02」オリヴィエ・ペール(「アルテ・フランス・シネマ」)によるセレクションのセルジュ・ボゾン特集を観た。 『ティップ・トップ ふたりは最高』(2013年)と『マダム・ハイド』(2017年)である。 二…

映画『シノニズム』

最近見た映画ナダヴ・ラピド監督『シノニズム』(2019年)。 出演は、トム・メルシエール、カンタン・ドルメール、ルイーズ・シュヴィヨット。第69回ベルリン国際映画祭金熊賞受賞。 イスラエルからフランスのパリに移住したイスラエル人青年のゼロか…

秋風が吹く

秋風が吹く。夏日で最高気温は26℃。晴れて日差しが強い。白いムクゲの花が咲いている。 アオイ科の落葉低木。高さ約三メートル。葉はほぼ卵形で、縁に粗いぎざぎざがある。夏から秋にかけて、紅紫色の五弁花が朝開き、夕方にしぼみ、次々と咲き続ける。中…

対談3

ドングリが鈴なりに実っている。マテバシイの実で、長楕円形の形で茶色だ。 ブナ科の常緑高木。九州以南の海岸近くに生え、高さ約一〇メートル。葉は長倒卵形で厚く、裏面は褐色。六月ごろ、雄花穂と雌花穂とを上向きにつける。実はどんぐりで、あく抜きをせ…

対談2

秋の風が吹いている。心地よく乾いた風だ。山野草の実が色づいて宝石のように輝いていた。つる性の植物である。 対談 「稲垣足穂に会ったころ」矢川澄子・荒俣宏 前回の「対談」のつづきになります。 荒俣 一九〇〇年頃に生まれた人というのは、僕が知ってい…

対談

もうすぐ秋分の日。暑さ寒さも彼岸まで。吹く風が秋の深まりを感じさせる。 紅紫色のハギの花が満開だ。 マメ科の落葉低木。山野に自生し、枝はあまり垂れない。葉は三枚の楕円形の小葉からなる複葉。秋、紅紫色蝶形の花が咲く。庭木にする。 『大辞泉』 本…

唯の野に唯の森あり秋新た

朝晩が涼しくなる。秋新た。青空を背にして花梨(かりん)の実が鈴なりだ。卵円形で黄緑色をしてる。まだ熟してはいないようだ。表面はきれいでつるつるしている。実はカチカチに硬い。 「唯の野に唯の森あり秋新た」 松本たかしの俳句で、昭和十三年(19…